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保護犬の過去話(1)スノーの場合

2017/08/06

保護された犬達は今を生きています。
でも、過去もあってその過去が今をつくっています。
どんな過去だったのか、想像してみました。

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**おじいちゃん犬ビーグル「スノー」**

地面の匂いを嗅ぎながら随分痩せた犬が1匹歩いてきた。
目は真剣そのもの、体は前のめりになり前足で地面をつかみながら
全てが彼の「鼻」に集中されている。
その様子が面白くて、彼を目で追っていた。
この辺りには「人慣れした野良犬」がたまにでる。
「人慣れした野良犬」つまり、飼っていた犬を捨てた人間が
いるということ。

その犬は私の前を横切り、10メートルほど行ったところで顔を上
空中の匂いを嗅ぎ、突然、本当に突然、私の方に振り向き見つめてきた。
目が合ってしまい、戸惑いながらも見つめ返すと、彼は首を左右に
1度ずつ傾げ、一度目線を地面に落とし、意を決したように
顔を上げたと同時に私を目指して駆け寄ってきた。

私は犬はそれほど好きではない。
それでも、駆け寄ってきた時に大きな耳がふわりふわりと
なびいている姿と、一直線に私に向かってくる一途な様子が
かわいくて、私の足元まできたこの犬の頭を自然と撫でていた。
「はっはっはっ」と息を吐き出しながら、この瞬間彼は
私を飼い主と決めたようだった。

私と彼はそのまま一緒に帰宅した。
紐につないだわけでも、私が呼び寄せたわけでもない。
彼は彼の意思で私と共に歩き続け、玄関の前で一度だけ
「入ってもいい?」とでも言いたげな表情で私を見上げてきた。
私がうなずき、ドアを開けると中を覗き込み、もう一度私を見上げ
家に入って行った。
この瞬間から彼は私の相棒となった。

始めて会ったあの日から数年がたち、あいつの顔や体の毛がすっか
白くなった頃、あいつは突然私の家から去って行った。
何かの匂いにつられて出かけ、2~3日家に帰ってこなかったことはしょっちゅう
あったが今回は出かけて行ってから1週間が過ぎている。
そして、帰ってくる気配がない。

私と出会った時は首輪をしていなかったが、今は首輪をしているし、首輪には
私の名前と電話番号が刻まれている。
下の村の人々はあいつが私の犬だと言うことは知っているから、何かあれば
連絡してくれるはずだし、この山の上では車はほとんどみかけないので
事故にあう可能性も低い。
犬は死期が近づくと自ら身を隠すと聞いたことがあるが、そういうことなのだろうか。

あいつがいつ帰ってきてもいいように寝床も全てそのままにしておこう。
そう、また突然姿を現すに違いない。
知らぬ間に家のいたるところにあいつがいるはずの空間が出来上がっていた。
特に、キッチンに立った時、必ず足元にいるはずのあいつがいないことで
あいつの不在が決定的になり、ぽっかりと空いた空間に飲み込まれそうになる。
気付けば、あいつの写真一枚も持っていなかった。
写真があれば、あいつの不在ももう少し耐えやすかったかもしれない。


<その頃 「あいつ」は>
匂いを嗅ぎ続け、ふっと我に返ったところは坂を下りきった平らな道だった。
困ったな。と思ったけれど、雨が降り出し、家までの匂いが絶たれていた。
取りあえず、雨に濡れない場所を求め歩いていると、首輪が木の枝
引っかかった。
必死で首を抜き、そのまま歩き続けた。
首輪は木の枝に残ったままだった。
人間がいた!でも、あの人じゃない。
そのまま歩き続けた、雨が止んできた。
寒かった。お腹もすいてきた。
道端で休憩することにした。
そして、知らない人間につかまった。
車に乗せられ、揺られているうちに寝てしまった。
気付いた時には嫌な匂いがする薄緑の壁と床の建物に連れてこられていた。
焼かれた匂い、不安げな声、消毒の匂いと糞尿の匂いが
漂うこの場所は到底好きになれそうになかったが、
疲れていたので冷たい床に丸くなった。

数日過ぎた。
知らない人間がきて、僕を指さし、僕は外に出された。
その人間の車に乗せられ、家に連れて行かれた。
その家には他にも沢山犬がいて、皆名前がつけられていた。

この家にいる間に何回か人間に会って、ある日車に乗せられ
新しい家に行った。
その家の人は朝と夜に僕を外に連れて行ってくれた。
外に出た時はいつも「あの人」を探して力いっぱい歩いた。
この家の人間は僕をあまり好きではないようだった。

しばらくしたら、僕はまた車に乗せられ、別の家に着いた。
その家には小さい人間たちと僕と同じビーグルが2匹とデカい黒い犬がいる。
この前、久しぶりにずっと外で過ごした。
僕はあの人といた時のように、一日中外で過ごすのが好きだ。

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この家の次、僕はどこに行くんだろう。

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